何だか面白そうだな~と思いながらも読めていない漫画が多々ある。
漫画って関心を持つころには巻数が多く出ていて、大人買いしようと思ってもウン万円も掛かってしまうので、なかなか手が出ない。
『キングダム』に興味があるが、凄い巻数だ。
なので今、ピッコマで1話ずつ読んでいるのだが、スマホの小さい画面では読みにくいったらありゃしない。
やっぱり読書は紙の本に限る。
電子書籍? 何それおいしいの?
『キングダム』と言えば秦であり、始皇帝。
しかし本日の読書感想文は漫画ではなく、小説の方だ。
以前、図書館で借りて読んだ始皇帝の小説『天下一統 始皇帝の永遠』(小前亮・著)について、Amazonのレビューで書いたものを編集して再掲する。
読みやすい歴史小説(ネタバレあり)
この小説での始皇帝は「趙政」ではなく「趙正」とし、後継者を決める遺勅のくだりは『史記』ではなく『趙正書*1』に拠っている。
作者が歴史学者なので、情報が更新された上で描かれたものと思われる。
これまで歴史小説を読み始めても、人物解釈が自分とは合わずにことごとく挫折していたのだが、この作品は歴史学者によるものからか、あまり突飛な方向に走ることがなく、とても自然に受け入れられた。
人間関係の描写もこういうことがありそうだなぁという説得力を持っていた。
若い軍人達は現代的な言葉使いなので漫画から入った人にも抵抗なく読めそうである。
呂不韋・李斯・王賁あたりはかなり力を入れて描かれているという印象だ。
王賁から軽口を叩かれても感情的にならずに返したり、好戦的な深層心理を自覚する場面などは李斯を冷徹な参謀という人物だけで終わらせていない。
王賁は生意気な若造から、若手を引っ張って行くベテランに成長して行く過程が親しみやすく描かれている。
一方で主人公の趙正は若い時の精神的に成長して行く過程は良かったが、終盤の不老不死を追い求めるくだりなどは心理描写不足が否めない。
全体的に李斯の意思に圧され気味なので、主人公としてはキャラが弱い。
ただ、史書においても始皇帝は人物像が掴みにくいので、大胆な解釈をとらない限りはこんな感じなのかなという気はする。
一番不満があったのは韓非で、彼に至っては心理面がまったく描かれず、ぞんざいに扱われ、作者から愛されなかったかのようだった。
全体的に描写があっさりしていて、呂不韋が璉に迫られる場面が二度に渡って描かれるにも関わらず濡れ場はなし。
処刑も車裂きだろうが腰斬りだろうが穴埋めだろうが一行死なので真に迫って来ることはなく、歴史物としては淡白であり、それゆえにヌルさも感じる。
序盤で趙高が李斯に見下される場面はフラグとして描かれたように見えるのに、趙正の死後はわずか2ページ強の概説で終わるので拍子抜けしてしまう。
王賁も一行でやる気を失くしている。
むしろ統一秦帝国の物語は始皇帝死後の滅びゆく過程こそ劇的なのだが、打ち切り漫画のような形で終わってしまった。
つかみは良いのに何だかもったいない。
上下巻以上の長編だったらもっと面白くなっただろう。
逆に言えばその分、誰にでも安心して読める歴史小説であり、分かりにくい紀伝体の史書の流れを把握するには良いのかもしれない。
不満点の方を多く書いてしまったが、おおむね面白くて好みであったがゆえの欲である。
(2019年 記)
参考