Björk "Fossora"
ビョークのオリジナルフルアルバムとしては10枚目に当たる『フォソーラ(Fossora)』は、2022年秋にリリースされた。
2024年時点では最新アルバムである。
「先祖」の女性形である"Ancestress"であったり、ビョークが亡き母を追悼する曲であったり、女系のルーツをテーマにしているようだ。
タイトルの"Fossora"は「掘る人」という意味だが、天を男に、地を女や母に喩えるので、大地を掘ることで女系を辿っていくという意味を表しているのだろう。
PVも公開されている"Ancestress"。
5thアルバム"Medúlla"に"Ancestors"という曲が収録されているが、この曲とは似ても似つかない。
"Ancestors"は地中から木乃伊でも蘇ってきそうな、非常に重く原始的な空気を纏っていたが、"Ancestress"はシンプルで明るい。
そのシンプルさに原始的であることを感じさせる。
バックヴォーカルに息子のシンドリ(Sindri)*1が参加しているが、"Her Mother's House"のイザドラほど声は目立たない。
ガバとバスクラリネットをベースに持ってくるところが、やっぱりビョークだなぁと思わせるセンスだ。
低音の木管楽器が響かせる音は、心に巣食う陰を引き出されるかのようだ。
"Victimhood"の難解さは、ビョークの真骨頂だ。
この曲を初めて聴いた時、涙が出た。
7thから9thまでは、良いんだけどそこまでハマることがなかったので、ビョークの曲で久々に芯から抉り出されたことの悦びも重なった。
Fiona Appleの時も同じことを言っていて芸ナシではあるが、この時も、ビョークはまだこんな激しい作品を作れるのかと思ったのだ。
常に挑戦的であり、前衛でもあり、壮大な音響は変わりないのだが、7thアルバム"Biophilia"以降は、音使いは前衛でありつつも、成熟し、達観したような空気が漂っていたように感じていたからだ。
元々この人は後退などしていなかったのだが、表題曲の”Fossora”みたいな激しい曲は久しぶりに聴いたような気がする。
ビョーク自身はシャウトしなくなったが、音響は凄まじい。
極限まで持って行く激しさは、"Pluto"(Homogenic)や"Declare Independence"(Volta)に通ずるものがある。
そしてそこからの"Her Mother's House"である。
凄い落差だ。
何しろこのラストナンバーの深さ、静けさと言ったら。
まるで遠い地平線に向かって流れていくような。
これはビョークの亡き母を想う曲らしいが、それを自身の娘イザドラ(Ísadóra)*2とともに歌う。
十代の少女のような声をした母親と、大人びた切ない声の娘という対比が面白い。
イザドラの声は透明感があり、それが背景に浮遊するかのように漂っていく。
"Fossora"の激しさに戦慄し、"Her Mother's House"で泣いてしまうのだ。
ビョークは50歳を過ぎても、感情を揺さぶられる音楽を変わりなく作り続けている。
きっとこの人は老女になっても前衛であり続けられるのかもしれない。
Björk "Fossora"
こちらは通常盤。
ジャケットはデジスリーブケース(いわゆる紙ジャケ)仕様。
Björk "Fossora(Deluxe)"
マニアやビョークのアートワークも楽しみたい人向けの豪華盤。
ピンナップは付いていないが、ジャケットはハードカバーの絵本のような体裁になっており、CDレーベルはフルカラー。
Ísadóra "bergmál"
娘イザドラのオリジナル曲。ビョークの血を感じさせる。